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流産の原因の60~80% は児の染色体異常(染色体が分離するときに正しく行われなかったなど)が原因と報告されています。安静にしなかった、大切にしなかったということが原因ではありません。人類では妊娠のおよそ15%は流産に至るとされており、母体の年齢が高まるにつれ、流産率も高まります。40歳以上では妊娠が成立してもほぼ半数が流産に至ると報告されており、47歳以上ではほとんどすべてが流産となります。また検出困難な微小な染色体異常や遺伝子異常が原因の流産も相当数あるといわれており、あわせると流産の大半が児の異常によるものであると推測されます。逆に97~98%の染色体異常児は妊娠初期に流産すると報告されています。自然淘汰の機序が働いているといってもよいかもしれません。
A 昔から、流産と診断されたら必ず、手術(子宮内容除去術:流産手術)を行うことが一般的でした。
流産の中には胞状奇胎(ほうじょうきたい)など、後遺症を残したり、大量出血する特殊な流産もあり、現代と違い、これらを事前に診断することが出来ないことがあったことも一つの理由です。しかし、流産の大半は、待機すると、そのうち自然排出することから、手術を行わない方針も最近ではよく選択されています。
A 流産組織の染色体分析をおこなう(後述)ことを希望される場合には手術となります。また胎嚢(たいのう)がかなり大きい場合なども手術の方が奨められますが、これは必ずしも一致した見解ではありません。当院では流産と診断された方々の約3分の2の方は自然待機を選択されており、その約80%の方は自然排出に至っております。
A メリットとしては、手術に伴う後遺症の回避(手術後に子宮内膜の発育不全となり、着床に不利な、薄い内膜しか育たなくなることがときにあります)がまず挙げられます。次に、手術の場合は、その後3か月(ごく小さい胎嚢の場合には2か月)の避妊が必要となりますが、自然排出すればすぐに次の妊娠可能となります。デメリットとしては、①いつ排出するか予測が出来ないこと、②多少の痛みと月経よりも多い出血を伴うことがあることが挙げられます。当院では事前に鎮痛剤と子宮収縮剤を処方いたします。ほとんどの場合、鎮痛剤内服で対処できます。しかし排出後は出血量が多くなる傾向にあるため、子宮収縮剤を内服していただきます。パニックとなり対処できなくて救急隊を要請し救急病院搬送となることがまれにありますので注意が必要です。その他のデメリットとして、待機しても結果的に排出に至らず、手術療法となることが(待機期間にもよりますが)20%程度あること、排出された組織を絨毛染色体分析に提出できないことが挙げられます。
A 待機期間は、2~4週間までとしています。流産と診断確定後、2週間後に来院いただき、診察後、さらに待機するかどうか相談させていただきます。4週間以上待機を希望される場合には個別に対応相談させていただいております。また待機すると一旦決めても、手術療法への変更はいつでも相談できます。排出された場合や、出血が多くなった場合などは随時診察のため来院いただきます(腹痛が強い場合や、ご気分の悪い場合などは優先して先に診察対処させていただくか、待合室でなくベッドで横になっていただきますのでお申し出ください)。鎮痛剤・子宮収縮剤は外出される際に必ずご持参いただくようお願いします。
A 明確なデータはありません。当院では、流産手術は、ブラインド操作でなく腹部エコーガイド下に行っており【子宮にやさしい人工吸引操作キット(MVA)を使用することもあります】、手術の完遂度を高く保つ一方、過度に手術操作を行うことを極力避けるよう必要最小限の手術操作にしています。子宮内膜(内膜基底層)の機能を損なうくらいなら、あくまで考え方ですが、完遂度が100%でなくとも、98~99%でも良しとしています(残りはその後自然排出されます、まれに残存が継続することがありますが、次回月経で排出します。それでもまれに残存する場合などは子宮鏡下手術などで対処の体制としています)。幸い、当院では、流産手術後に、極端な内膜の発育不全を発症した方はおられません。
A 出来るだけ安静にして、鎮痛剤で対処してみてください。出血量が多く普段の生理(2日目)の量を遥かに上回る場合は子宮収縮剤の内服をしていただきます。排出した内容物を出来るだけ、ビニール袋(スーパー、コンビニのレジ袋でもよい)に回収し、冷蔵庫に一時的に保存してください。当日または翌日に(遅くとも翌々日までに)クリニックを受診いただきます。診察後、今後の相談をさせていただきます。またお持込いただいた流産組織は病理検査に提出いたします。(注:流産原因がわかるわけではありません。特殊な流産でないかどうか確認のためです。)出血があまりにも多い場合など、当院へ連絡がつかない場合(夜間など)には、申し訳ありませんが、救急病院にて診察を受けてください。
流産を繰り返す場合、反復流産(2回)、習慣流産(3回以上)、不育症(流産を繰り返す場合のみならず、子宮内胎児死亡なども含む)などの診断となります。なお子宮外妊娠や化学妊娠(尿や血液検査で妊娠と判明するも、画像診断その他で妊娠が確認できない状態)は反復・習慣流産・不育症には含まないことと一般的にはされていますが、より早期に流産に至っているのだから、化学妊娠を繰り返す場合、より重症な不育症の可能性があると考える医師(少数派ですが)もいます。
検査として以下の検査項目があります。3回以上流産を繰り返した場合には、強く検査が推奨されますが、2回の場合はご希望があれば行うというのがわが国での一般的な方針です。根拠として、2回の場合には、次回妊娠での生児獲得率が70%を上回ることが理由としています。ただし最近米国では、3回以上繰り返してから検査しても、2回のみで検査しても異常検出率は変わらなかったので積極的に施行すべきだという報告がなされました。
■抗リン脂質抗体の有無(リン脂質は細胞膜などを構成する成分ですが、それに対する自己抗体を保有している)
流産原因となるメカニズムは複雑で今なお定説はありませんが、絨毛に対する免疫による攻撃、胎盤における血栓形成などが関わっているとされています。→ アスピリン、ヘパリン療法、(柴苓湯)の治療法があります。
以上4項目に加え、以下の抗体検査を行う場合がありますが、高いエビデンスはなく海外では必ずしも行なわれていません。
いずれかの抗体が異常値を示した場合、12週間以上あけて再検査することになります(一時的な感染などにより異常値となることがあるため)。
■子宮内腔の形態異常(中隔子宮など生まれつきの子宮形態異常の他、子宮筋腫、子宮内腔癒着症など)子宮鏡検査子宮内の病変や異常のために血流などの問題で流産に至るとされています。→ 手術療法があります。
■甲状腺疾患とくに(潜在性も含む)甲状腺機能低下症・橋本病(甲状腺に対する自己抗体保有)→ 専門内科と相談の上、甲状腺ホルモン剤の治療法があります。
■夫婦の染色体検査(採血による):転座(ある染色体の一部が、分離して別の染色体に組み込まれているなど)染色体の保有者かどうか。→生まれつきの異常のため治療法はありません。妊娠を繰り返していくか(最終的に70%以上のご夫婦が生児を獲得できると名古屋市立大学の報告がある)、体外受精により染色体正常の受精卵を移植する(ただし、学会での厳正な審査が事前に必要)。(保険)8,270円
■血栓素因(プロテインC, プロテインSなど)検査(初期流産よりむしろ中期流産に関係していると報告されており、胎盤における血栓形成が関わっているとされています。) → アスピリン療法の治療法があります。
プロテインC:(保険)1,210円 (自費)1,650円、プロテインS:(保険)950円 (自費)1,320円
■血液凝固12因子欠乏の検査(先天的あるいは後天的に欠乏していると流産と関係するという報告があり、わが国では広く行なわれていますが、エビデンスは十分でなく、国際的に認知されているわけではありません。)→アスピリン療法の治療法があります。(保険)1,150円 (自費)2,520円
■流産組織の絨毛染色体分析(流産原因が染色体異常によるものかどうかを判別します。ただし46XXであった場合、母体組織の混入による可能性もあり、必ずしも染色体が正常であったと断定することにはなりません)(自費)60,000円
■糖尿病検査:ただし初期流産の原因になるというエビデンスはありません。
■同種免疫に関する検査:実施するメリットのエビデンスが無いため、当院では行っていません。また対処法としての夫リンパ球移植もFDA(米国食品医薬品局)で禁止されています。
注:不育症の検査や治療に関しては、エビデンスに乏しいものが多くあります。やみくもに沢山の検査を行えばよいというものではありません。ありとあらゆる検査を行なえば、最先端であるということにはなりません。同種免疫による不育症と診断し、夫リンパ球移植がかつて多くの患者さんに行われた時代がありました。しかしその後、全くプラセボ(単なる生理食塩水)注射と比べ、なんらメリットがないことが判明、また抗リン脂質抗体を発生させるなどの副作用も報告されています。FDAでは、禁止していますが、今でも行っている施設がわが国にはあります。必要かつ十分な検査をおこなっても異常が見つからない場合、夫、家族、クリニックスタッフによる心理的なサポート(tender loving care)が大切であり、流産率を下げるというエビデンスも近年確立されつつあります。
埼玉県では平成30年4月より不育症検査の助成を開始しました。不育症検査は「2回以上の流産、死産、あるいは、早期新生児死亡の既往がある場合又は医師の判断で検査が必要な場合において、医師が必要と認める不育症のリスク因子の検査」となっております。申請につきまては受付にご相談ください。